連載ー4 美人画廊




美人画廊 4話 第一章 (2)


 金曜日、河田奈々未は新堀画廊に行ってみた。三日間だけアルバイトをすることにしたのだ。マンションからは地下鉄で7駅、隣のまた隣の区である。思いのほか近距離だった。
 改札を抜け地上に出ると大きな通りがあった。商店街が続いている。改札の右にあるコンビニの角を曲がり、しばらく歩くと店は減って住宅地になった。画廊まではこの道を一直線である。美容室が見えてきた。その向かいが新堀画廊だ。


 社長の吉井孝夫が画廊を案内してくれた。
 入り口を入ったところが版画の展示してあるスペース。その隣の部屋には緩衝材や包装用品などが置かれていた。本棚もある。スタッフルーム兼倉庫という感じだ。スタッフルームの一角にはドアがあり、そこからも出入りできるようになっている。比較的きれいに物が置いてあるところを見ると社長は几帳面な性格なのだろう。
 休憩するときはそのソファでと言われた。ソファの上の壁にはブラジリエの草原の馬の版画が掛かっている。先日、奈々未が強引に売り付けたものだが、吉井孝夫は気に入ってくれたようだ。そうでなければ倉庫の奥に仕舞いこんでいるだろう。
 さらにカーテンで仕切られた奥にも部屋があり、そこはキッチンやリビングだった。
「二階は客間と倉庫です」孝夫が上を指差した。
 例の部屋だ。そこから奈々未と愛理が一緒にいるところを見ていたわけだ。二階には近づきたくもない。
 両親の住まいだったのを改築して画廊にしたということである。それで、すぐ近くにアパートの部屋と駐車場を借りているのだろう。孝夫は一人暮らしのようである。
 仕事の内容はおもに来客の対応で、版画を見に来る人にはコーヒーを出して接待する。ラックにある版画が売れた場合は梱包材で包むと言われた。三日で五万円のバイト料にしては簡単で楽な仕事だった。
 やはり、仕事が終わったらベッドへ押し倒されるに違いない。吉井孝夫は遊んでいる風には見えず、女性の扱いも慣れているとは思えなかった。それくらいは瞬時に見抜いている。どんな口実を付けてアパートの部屋に連れ込もうというのだろうか。


 それから画廊に展示されている版画の説明を受けた。
 壁に掛かった版画はほとんど全てが英国のラファエル前派の作品だ。19世紀末に製作された版画である。
 版画とは思えないくらい精密に描いてあるので、そこを尋ねると、フォトグラビュールといい、写真製版を使った版画だということだった。写真を使っているので元の絵画そっくりに再現できる。それでも、19世紀末なので、フィルムカメラ以前の乾板写真、湿式写真の時代である。フォトグラビュール版画はカラー印刷、グラビア印刷が開発される前の複製技術なのだった。
「フォトグラビュール、初めて聞いたわ」
 奈々未は、そのような写真製版の技法は知らなかったし、なにより、今から百年以上も前の作品であることに感心した。
 白と黒のモノクロ画面の版画を順番に版画を眺めていく。
 入り口の左手の壁に掛かっているのは、バーン=ジョーンズの『ヴィーナスの鏡』。荒野の小さな湖の周りに佇む女性たちがいる。いずれも、ゆったりとした服を着ていて、湖面には彼女たちの姿や顔が映っている。
 その隣は螺旋階段を降りてくる女性たちの版画だ。十五人くらいいるだろうか、バイオリンやハープなどの楽器を手にしている。女性たちが微妙に重なり合っていて、なだらかな曲線を描いている。こちらは『黄金の階段』という題名だ。
 バーン=ジョーンの版画が多いのは、フォトグラビュールによる作品集が出版されているからである。
 次は『ピグマリオン【成就】』。これもバーン=ジョーンズの作品である。男性が女性の前に膝を付いて手を取っている構図だ。女性の姿勢がぎごちなく、表情が乏しい、しかも、女性と男性の視線がどこか微妙にズレている感じがした。
『魔法にかけられるマーリン』
 この版画のことはよく覚えている。ブラジリエを売り込みにきたときに気になった版画だった。
 舞台は森の中、スタイルのいい女性が立ち、本を広げて右の後ろを振り向いている。そこには満開の大木の根元に寄りかかった男性が女性を見上げている場面である。
 それにしてもきれいな顔立ちの女性である。イギリスだから、故ダイアナ妃を思い起こさせるような横顔だ。
 奈々未は、男が魔法使いのマーリンであり、女性を呼び止めて魔法を掛けて誘っているのだろうと思った。だが、孝夫の説明によるとその逆で、魔法を掛けているのは女性の方、魔法使いのマーリンはすでに魔法によって生気を失っているのだそうだ。
「男性がナンパしているのかと思ったわ。反対に、女性の方が誘惑しているのね」
「本を見ながら覚えたての魔法を掛けているんです」
「聞いてみないと分からないものですね」
 なるほど、絵画には物語があるのだ。
「これは『欺かれるマーリン』とも呼ばれているんです」
 新堀画廊に売り込みに来たときのことを思い出した。帰りがけに奈々未が振り向くと、吉井孝夫がソファに横たわっていた。それは、まるで、『魔法にかけられるマーリン』、いや、『欺かれるマーリン』そっくりの格好だった。
 あのとき、奈々未は詐欺には失敗したが、孝夫を魔法に掛け、欺いていたのだ・・・
 その隣は空中に首が浮かんでいて女性が指差している版画だった。ギュスターヴ・モローの『サロメ』。そういえば、どこかで見た覚えがあったかもしれない。
「これは銅版画で、ルーブル美術館の原版を使って印刷している、いわば、お土産のようなものです。でも、銅版は摩耗してしまうので、摺るのに限度があり、めったに出回りません」
 版画の枠であるマットという厚紙で隠れた部分に、「後摺り」を示すスタンプがあるそうだ。
 右側の壁面には、カラーの版画も展示されていた。バーン=ジョーンズ作『フラワーブック』。こちらは20センチほどの丸い画面である。水彩画のように見える。
 その隣の、百合とバラの花をモチーフにした版画は、ウォルター・クレインの手によるものだそうである。
 なるほど、これは小さな美術館だ。


 画廊は11時開店である。
 孝夫は隣の部屋、スタッフルーム兼倉庫で版画の整理を始めた。
 奈々未は展示スペースの奥のテーブルに座った。パソコン画面には新堀画廊のホームページが表示されている。店番をしながら、これを見て勉強しておけというのだろう。
 業務内容を見ると、新堀画廊は貸し画廊として作家の個展もおこなっている。趣味の版画の展示だけではなかった。ラファエル前派の版画を展示するのは年に数回で、その期間、二週間くらい飾っているようだ。日程表を見ると、月末に陶器展が、来月には版画展が予定されていた。他には、若手版画家展があったが、こちらはすでに終了していた。貸し画廊としてもそれなりに忙しいようである。他にも、版画のレンタルもしていると書かれてあった。
 ホームページにも飽きてきた。動画でも見ようかと思っていたらお客が来た。初めてのお客だ。孝夫よりと同じくらいか、やや年上の男性である。
 立ち止まって『ピグマリオン【成就】』を見ているので、ラファエル前派の版画を見にきたお客であろう。奈々未に気が付くと、驚いたようにお辞儀をした。奈々未が社長は隣だと言うと、かつて知ったる我が家といった様子で事務室に入っていった。
 コーヒーを淹れてまた席に戻る。わざわざバイトの必要もないくらいだ。これくらいは孝夫が自分でやれよと思った。


 バイト初日、版画が二枚売れた。
 お客様には無理に勧めないようにと言われていたので黙って見ているだけにした。そうしたら、ラックにある販売用の版画の中から、海岸の夕日を描いた版画を買っていった。初めてなので孝夫に手伝ってもらいながら、柔らかなボール紙で覆い、プチプチの緩衝材でくるみ、取っ手を貼り付けた。
 それからもう一枚、八千円のミロの版画が売れた。こちらはカラー印刷の物だ。
「奈々未さんに来てもらって良かった、一日に二枚も売れるなんてめったにないから」
 孝夫がしきりに感心しているので、売り込むコツを教えてあげた。
「ほら、買ってくれたのは男の人だったでしょう。お客の側へピッタリ寄って版画の説明しながら、こんな風に・・・」
 と身体をすり寄せる。
「購買意欲をかき立ててあげただけ」
「あわ」
「孝夫さんにも、チラッと太もも見せてあげたじゃない。それで六十万円も出してくれたんでしょう。一万円くらいのものを買わせるなんて簡単よ」


 6時過ぎ、閉店間際にお客さんが来た。どこかで見たことがあるなと思ったら、向いにある美容室の奥さんだった。奈々未がラッセンの版画を持ち込んだときに、運ぶのを手伝うと言ってくれた人だ。
 パソコンに向かい、なにやら作業をしていた孝夫が、「池田さん」と立ち上がった。「商店街の件ですか」「違うわよ、この人」。池田さんは奈々未に関心がある様子だ
「初めまして、奈々未と申します」 
 ご近所さんには初対面が大事なので丁寧な言葉遣いをした。
 美容室の池田さんは挨拶もそこそこに「若い女の人が出入りしてたんで気になってたのよ」と言った。
 しっかり見られていたのだ。美容室はヒマらしい。
「そしたら、まあ、あんた、間近で見たら、すごい美人ね。一般人じゃないでしょ、モデルか芸能人?」
「芸能人だなんて、ただのバイトです」
「社長のお嫁さんってこと、そうなんでしょう、社長」
「いえ、奈々未さんには受付とか販売を手伝ってもらってまして」
「てっきり、お嫁さんかと思った。それじゃあ、あなた、うちの甥なんかどうかしら、こんな美人がお嫁さんに来てくれたらねえ」
 早口で一気にまくしたてた。いきなり甥の嫁と言われても返事に窮する。
 池田さんの甥というのは二十五歳になったばかりだそうだ。奈々未はアラサーなんですとやんわり断った。
「あらまあ、三十だなんて、ゼンゼン見えないわよ。若いし、美人だし、甥にピッタリだと思ったのに。残念、残念」
 池田さんは残念だと言いながら、その甥の話を続けた。
 二十五歳になっても、某アイドルグループのメンバー「今野レイナ」の大ファンで、部屋にはポスターが貼ってあり、遠くまで握手会に行く・・・柔道三段、図体ばかり大きくて、困っちゃうと嘆いた。
「早くいい相手を見つけて欲しいんだけど・・・仕事何してると思う?」
「さあ、なんでしょう」
「交番のお巡りさん、甥は警察官なのよ」
 警官と聞いて奈々未はギクリとした。詐欺師の天敵ではないか。
「お巡りさんですか、それは、お堅い職業で・・・」
 努めて平静を装う。
「でも、犯人を捕まえようとして格闘になったら危ないんじゃないですか」
「それが、体に似合わずパソコンが得意で、将来は知能犯の捜査員を目指しているのよ。強盗よりもオレオレ詐欺を逮捕したいんだって。詐欺はダメよねえ」
 ますます弱った。新堀画廊の店の前には詐欺を捕まえようと意気込む警察官がいるのである。犯人を追いかけるより、アイドルを追っかけていればいいのだ。
「そうだ、社長、画廊のホームページ作るとき、うちの甥が、大ちゃんが手伝ったんだよね」
 池田さんの甥は大ちゃんというらしい。奈々未が見ていた吉井画廊のホームページは大ちゃんの作だった。
「ええ、手伝うというか、全部やってくれました」
「ほらね」と池田さんは自分の手柄のように手をパチンと叩いた。「奈々未さんの写真をアップしてあげなさいよ。またお客さんが増えるわよ」
 詐欺師がホームページに顔を晒すなんて、まるで交番に張り出してある指名手配犯のポスターみたいではないか。
「そうだ、こんな美人のお嫁さんが来たって、宣伝してこなくちゃ。私に任せなさい、商店街の婦人局長だからね。こりゃ、忙しくなるわ」
 美容室の池田さんは、「今度、甥を連れてくるから」と言って帰っていった。


「ちょっと、社長。あんた知ってたんでしょう。あのおしゃべりオバサンの甥だかなんだかって人が警官だってこと」
 奈々未はパソコンがのった机をバシンと叩いた。
「ええ、まあ、でも、アイドルとかは初耳でした」
「アイドルなんて、そんなことどうでもいいの。あのオバサン、身内にお巡りがいるんだってさ。オレオレ詐欺を捕まえたい? どうぞ捕まえなさい。だけど、こっちは心臓バクバクよ」
「道案内とか、いなくなった猫の捜索やら、それが交番勤務ですよ。ああそうだ、商店街のお祭りに交通整理で来てくれたなあ」
「言い付けるつもりだったのね。バイトとか、うまいこと言って、結局は警察に突き出すんでしょ」
「そのつもりなら、とっくに連絡してました」
「とにかく、バイトはこれで終わり、とっとと逃げる・・・じゃなかった、帰るわ」
「せめて明後日まで、お願いできませんか」孝夫が手を合わせて頼み込んだ。
「三日目にパトカーがお迎えに来るとか、そんなことしたらタダじゃすまないわよ」腰に手を当てて孝夫を睨み付ける。
「詐欺はバレるし、向いは警官、ヤバいところに来ちゃった」
 奈々未は頬を膨らませた。
「それにあのオバサン、口が軽そうだから、そこらじゅうで私のことをお嫁さんだとか言いふらすわよ。ああ、イヤだ。頭きちゃう」
「怒った感じの奈々未さん、それもステキです」
「バッカじゃないの」


 それでも奈々未は日曜日まではバイトすることにした。給料は前払いで受け取っているので、ここで辞めたら、孝夫は警察に駆け込むだろう。
 あと二日の辛抱である。


 *本日もご訪問くださりありがとうございます。

連載ー3 美人画廊

 美人画廊 3話 第一章 1の3


 隣の部屋に入っていた吉井孝夫は封筒を手にして帰ってきた。奈々未が中を見ると確かに一万円札が60枚入っていた。
 無事に六十万円を手にすることができた。今回は詐欺ではなく、正当な商談が成立したのだ。
「ありがとうございます」一応お礼をしておく。
 すると孝夫は別の封筒を机に置き、
「三万円あります、どうぞ」
 と言った。
 奈々未が封筒を確認すると一万円札が三枚あった。予想通り、代償を求めてきたのだ。それでも、パパ活としては妥当な金額だし、好みのタイプのイケメンだから断る理由は見当たらなかった。
「いいわよ、一晩だけなら・・・」
「一晩? いえ、三日間です」
「三日も!」
 三日間と聞いて驚いた。三万円で三日もパパ活とは、詐欺の代償とはいえ随分足元を見られたものだ。奈々未は帰ろうとしてソファから腰を浮かせた。それでもお金の入った封筒はしっかり掴んでいる。一度受け取った物は返さない。 
「表の張り紙はご覧になったでしょう。ちょうどいま、受付のアルバイトを募集しているんです」
「バイト・・・ああ、なんだ、そっちの話ですか」
 てっきりパパ活かと思ったのだが、そうではなくて、画廊でアルバイトをしないかというのである。そういえば、店に入ったときにバイトの面接に来たと勘違いされたのだった。
 早とちりをしてしまった。恥ずかしくて顔が上気してくる。
「お茶を出したり、応対やら受付を手伝ってくれる人を探していたんです。版画を見にくる人が多くてね。今週の金曜日からお願いできませんか」
「バイトねえ」
 店に入って、かれこれ一時間くらい経つだろうに、その間、お客は誰一人としてやってこない。こんなヒマな店では受付など必要とは思えなかった。
「そんなによく売れるんだ、この版画」
「売り物ではありません。展示して見てもらうだけです」
「見せるだけ? 入場料は取るんでしょ」
 孝夫は首を振った。
 版画を見せるだけ、しかも入場料は取らないという。これではタダで入れる美術館ではいか。言われてみれば、なるほど壁の版画には価格のラベルが付いていない。
「こっちは詐欺と言われても仕方ないことしてるの。で、あなたはそれと真逆、タダで見せるなんて大層ご立派だこと」
 版画は売買せず、しかも入場無料とくれば人がいいにも程がある。
「仕入れるのにお金がかかるでしょう」
「趣味で収集して展示しているだけです。意外と同じような趣味の人がいるんですよ」
「ふうん、まあ、なんとなく古そうで、趣きはあるけど」
「ラファエル前派」
 と、孝夫が言った。奈々未は何のことだか分からないので、とりあえず「ぜんぱ」と繰り返してみた。
「世紀末の、ここで言うのは19世紀末ですが、英国の世紀末絵画、ラファエル前派を中心に象徴派をコレクションしています」
 19世紀末というと1990年頃だろうか。違うな・・・頭を巡らせた。
「もしかして、19世紀末って1890年とか、その辺のこと?」
 孝夫がそうだと頷いた。
「100年以上も・・・120年も前じゃない・・・驚いたわ」
 ますます版画の値段を知りたくなった。
「高いの? これ。100年前のアンティークだったら、高いんでしょ」
「大きいサイズで二十万円くらい、小さいのは数万円でした」
 思ったよりずっと安い。奈々未が持ってきた版画と同程度の値段だった。


 奈々未は立ち上がって壁に掛かった版画へ近づいた。先ほど見た美しい女性と人相の悪い男の版画だ。
 今度はじっくりと版画を鑑賞した。
『魔法にかけられるマーリン』
 森の中だろうか、生い茂った木の枝には白い花が咲いている。画面の前を大きく占めるのは長いドレスを着て立っている女性である。手に持った本を広げ、右の後ろにいる男の方を振り向いている。その視線の先には、男がだらしなく寝そべった格好で大木の根元に寄りかかっている。
 女性を誘惑している場面だろうと思った。男は目付きが悪い。寝転がってナンパしてもうまくいくとは思えない・・・
 奈々未が視線を感じて振り向くと、吉井孝夫が版画の中の男そっくりな姿勢でソファに横たわっていた。
  *****
「それで、奈々未、バイトに行くわけ」
「そうね、版画買ってくれたでしょ、ワケアリなのを承知でね」
 新堀画廊を出て水上愛理の待つカフェに行った。
「もしかして、その人、奈々未に惚れちゃったとか」愛理が楽しそうに言うので、「まさかね、そんなのないよ」と軽く否定した。
「惚れたよ、バレても言い値で買ったんでしょ」
 売り込みが成功したので、「仕入れ」にかかった金額を引き、二十五万円ずつ山分けにした。いつもならお金を受け取って嬉しいのだが、今回は素直に喜べなかった。
「ちょっと申し訳なかったかな」
「奈々未らしくもない、引っかかる方だって、それなりの下心があるんだから。ほら、あのジジイ覚えてる?」
 愛理が言うのは川崎市にある画廊を狙った時のことだ。その画廊の経営者は事前に仕込みに行った愛理にも、売り込みに行った奈々未にも嫌らしい視線を送ってきた。顔がテカテカして、太った腹の出た男だった。奈々未はすぐにも逃げ出したくなったが、何とか我慢して六点の版画を百万円で売り付けた。
「あのオッサンに会ったらヤバいよね。詐欺だ、金返せとか言いそう。あれに比べたら、吉井さん、いい男だったでしょう」
 奈々未はうんうんと頷く。
「でも、固い感じで真面目過ぎるっていう印象、それに細かい」
 駐車場に車を停めたら、そこは自分が借りているスペースだったらしい。ちょっと停まっただけなのに、それで文句を言うのは細かすぎる性格だ。
「バイト料前払いしてくれたし、三日間だけなら行ってみようかな。一日一万円、あと、交通費と食費で二万円出すって」
「全部で五万か、気前が良すぎるね・・・誘われなかったの、奈々未」
「三万円見せられたときには、その気になってた。一晩だけならね」
 奈々未はクスっと笑った。
「いい人だわ、吉井孝夫。私の目に狂いはなかった。どうせバレてるのなら、もっと版画買ってもらおうよ、安く仕入れるから」
 詐欺に使う版画は、在庫を抱えた画廊や絵画商法から撤退した業者から格安で手に入れている。
 二人が絵画詐欺を働くようになって二年になる。
 奈々未と愛理は同じ店のキャバクラ嬢だった。それなりの美人だから人気があって稼ぎも良かった。当たり前のように、手にしたお金はすべてホストにつぎ込んでいた。二年前の冬、奈々未の勤めていたアクセサリーの店で愛理と再会した。そのときに愛理から絵画詐欺の話を持ちかけられたのだ。
「そろそろ、この商売やめた方がいいかなって、そう思わない? 今回バレたでしょ。だから、ヤバくなる前にやめよう」
 奈々未は軽くため息をついた。画廊をあとにするとき、吉井孝夫からこう言われたのだ。
『感心しませんね、このような商法は』
 彼がこの手口に気付いたのは、懇意にしている画材店から聞き込んだからだったと言っていた。
「あちこちの画廊に、詐欺に注意とか回覧が回っているみたいよ」
「まあ、いつまで続けられるものでもないよね」愛理は同調しながらも、「それじゃあ、結婚詐欺にしなさい、ターゲットは近くにいるし」と笑った。
 結婚詐欺という言葉がズキリとこたえた。
 奈々未は結婚を前提にしていたカレと別れたばかりなのである。


 いつもなら雑貨屋をのぞいたり、服を見て歩くのに、奈々未は真っ直ぐにマンションに帰った。お金は手に入れたものの、うまくやったという感覚は湧いてこない。なんとなく後ろめたさが付きまとうのだ。
 玄関でパンプスが脱げずに片足だけ土足で上がり込んだ。
 女性の一人暮らしも三十歳を過ぎて、いつの間にかだらしない生活が染みついてしまった。キッチンの床にはコンビニの袋やピザの空き箱が転がっている。脱ぎっぱなしの靴下を蹴ってベッドへ寝ころんだ。
 手を伸ばすとクッションが触れた。クッションを男の代わりに抱く。
「康司・・・」別れた男の名を口にしてみた。
 彼と出会ったのは一年くらい前だった。
 奈々未が働いていたハンドバックの店が展示会に出店した。そこでブースを仕切っていたのが木下康司だった。いくつかのブースを担当しているイベント会社の社長だった。
 イベントが終わった日にホテルへ誘われた。
 それから、康司の会社「オフィス木下」に引き抜かれてイベントの仕事を手伝うようになった。初めはスタッフだったが、そのうち、周囲からは「婚約者」のように見られるようになっていた。ところが、今年になってから、かまってくれなくなり仕事にもお呼びが掛からなくなった。
 そして・・・康司が別の女といるところを見てしまった。
 康司はラフなジージャン、女の服は忘れた。どっちにせよ、イベントのスタッフや、得意先の顧客のようには見えなかった。彼は女の腰に手を回しタクシーを止めた・・・
 結婚を前提にしていたとばかり思い込んでいたのに・・・


 *本日もお読みいただきありがとうございました。

連載ー2 美人画廊

 美人画廊 2話 第一章 1の2


「版画の買い取りをお願いしに来ました」
 奈々未はそう言って画廊の中を見回した。
 ドアを入ったところが展示スペースで、中央には応接セットがあり、突き当りの右手には事務机があってパソコンやファイルが置かれている。
 展示スペースの壁に掛かっているのは白と黒の画面の精密な絵画だった。いや、絵画でも版画でもなく、むしろ写真のように見えた。それが十数点並んでいた。
 不思議な感覚にとらわれた・・・これは版画なのだろうか。
 店内の様子が予想とは異なっていたので戸惑っていると、吉井孝夫が「あとの二点は」と言いながら、外に立てかけておいた残りの版画を持ってきた。ふと、違和感を覚えたのだが、店主が自ら詐欺の手伝いをしてくれたので手間が省けた。
 次第にこちらのペースになってきたので落ち着きを取り戻す。奈々未は箱から版画を取り出し壁に立てかけた。
「これを手放そうかと思って・・・買い取ってくださらない」
 ラッセンとブラジリエがそれぞれ二点ずつ、ラッセンのイルカの版画は高さが1メートルほど、ブラジリエの馬をモチーフにした版画はその半分くらいの大きさである。
 吉井孝夫は何も言わずにブラジリエとラッセンの版画を見て頷いた。品定めをしているのであろう。


 奈々未は自分の後ろの壁に掛かった版画を眺めた。
 画廊の中では一際大きい版画で、高さ1・5メートルくらいある。人相の悪い男が横になっていて、前に立つ女性は背後の男性を振り返っている構図だ。物語の一場面らしいが、二人がどのような関係なのかは分からない。
 サラッと見ただけで奈々未はソファに座った。すぐに孝夫も向い側のソファに腰を下ろした。
 そのタイミングを逃さず、先手を打って仕掛けた。
「どうですか、いい品物でしょう。買ってくれませんか」
 にっこりとほほ笑むことも忘れない。もちろん、これもお芝居である。
 この仕事をするときは、いつもより念入りにメイクをする。そうでなくとも顔にはそこそこ自信がある方だ。鼻がスッと高めで、初対面の人からも美人だと言われる。そこへ文字通りの詐欺メイクだから、この顔でほほ笑みかければ、たいていの男はソワソワし始める。そうなったらこっちのもの、言い値で版画を買ってくれるというわけだ。
「ええと、馬の版画はブラジリエでしたかね・・・大きい方は」と言ったまま考え込んでいる。
「イルカはラッセンよ。ブラジリエとラッセン」
 作家の名前を二度繰り返した。
「ああ、そうだ、ラッセンでした・・・うちでは買い取りはあまりしたことがなくて」
 吉井孝夫は乗り気がなさそうである。
 これではなかなか商談が進まない。
 そこで、こちらから、
「全部で六十万円でどうかしら」と、希望金額を言ってみた。
 一点あたり十五万円である。この版画であれば、通常は購入価格が十五万円前後であろう。画廊に買い取ってもらうとなると、せいぜい五、六万円にしかならない。
 六十万円という値段を出したのは相手を見て強気に出てみたのだ。とっさにラッセンの名が浮かんでこないのはいかにも素人である。
 高額で売り込むために、別の作戦も用意している。
 奈々未はソファに深く座り直し、ゆっくり脚を組み替えた。タイトスカートから太ももをチラッと見せた。これも仕事上のテクニックだ。
 すると、吉井孝夫はあたふたした様子で席を立った。「少々お待ちください」と言ってパソコンの前へ行き、なにやら見入っている。
 何をしているのかだいたい見当は付いた。インターネットで版画の取引価格を調べているのだ。どうやらその気になってきたらしい。奈々未の美脚作戦が当たった。
 さっそく愛理に連絡しようとスマホを取り出した奈々未だったが、そこで誰かの視線に気が付いた。
 あれだわ・・・
 壁に掛かった縦長の版画で、豊かな長い髪をした女性の上半身が描かれている。手には一口齧った果物を持ち、愁いを秘めた眼差しでこちらを見ているのだ。ザクロのような果実の真っ赤な果肉、それを齧った赤い唇が不気味な感じである。
 カラーなのでこれは展覧会のポスターであろう。
 画中の女性の視線が気になったのでスマホを閉じた。


 パソコンを見ていた孝夫が戻ってきてソファに座った。
 ネット通販では通常より安めの価格設定にする業者がいる。もし、高いと言うなら四点で五十万円でもよい。これらの版画の仕入れ価格はタダみたいなものだから、価格を下げるのは織り込み済みだ。
 それとも、さらに購買意欲をそそるため、下着まで見せてあげようか。
 奈々未が頃合いを計っていると、
「お友達は」と孝夫が思いがけないセリフを口にした。「彼女も、その金額で良いと言っているのですか」
「はあ」
「昨日、いえ、一昨日だったかな、あなたぐらいの若い女性がお見えになって、ラッセンとブラジリエをお探しだったもので、もしかしたら、お知り合いではないかと」
 ギクッとしたが、奈々未はとぼけて白を切る。
「何のことでしょうか、ただの偶然、人気の画家ですもの。欲しい人は幾らもいるんじゃないの」
「さきほど二階の部屋で片付けものをしていましてね、ふと、窓の外を見ると、うちの駐車場に車が入った。そこから女性が二人降りて版画を運び出してました。その内の一人の方には見覚えがありました。二日前に会ったばかりでしたからね」
 奈々未は軽く舌打ちした。アパートの駐車場に車を停めて愛理と二人でいるところを見られていたのだ。店内に入ったとき、「あと二つ」と言ったのに違和感を覚えたのは、そのためだった。
「店を始めるときに先輩の画材店から、こういう手口があると教わったんです。でも、まさか、僕の所へ来るとは思っていませんでした」
 詐欺の計画を見破られてしまった。
「あーあ、バレたんだ、残念」
 スカートの裾を引っ張った。太ももを露出して損した。
 こうなったからには長居は無用だ。奈々未はソファから立ち上がって版画を仕舞いに行った。
「警察には電話しないでよ、まだ、詐欺にはなってないんだから」
「呼びません・・・」
 そんなのは当てにならない。面倒なことになる前に早いとこ退散しなければならなくなった。
「四つも持って帰るなんて、重くて面倒なんだよね」
 演技する必要がなくなったので、馴れ馴れしい口調になった。
 奈々未が版画を持ち上げたところで、店主の吉井孝夫が言った。
「せっかくお持ちになったのだから、その版画、こちらで引き取りましょう」
 額縁に掛けた手を止め、奈々未は彼の方を振り返った。右の肩越しに彼を見て、しばらくその姿勢を保つ。
 聞き間違いでなければ版画を買うと言ったのだ。それも、騙されていると承知の上である。
 奈々未は立ったまま、「マジですか」と確かめた。詐欺は失敗だったと諦めかけたが、どうやら形勢が変わってきたようだ。しかも、二人の位置関係は奈々未が立って彼を見下ろしている格好だ。こちらが優位である。一転して再び強気になった。
「じゃあ、買ってよ。ちゃんとした品物だから六十万はまけないわよ」
 詐欺まがいと知りつつ買い取っても、版画をお客に販売できれば店側としてはそれでよいのである。この一件とは別に商談があって、すぐに売れるという見込みでもあるのだろうか。
「これが売れたら、あなたは私に感謝するわ、きっと」
 吉井孝夫はお金を取ってきますと言って隣の部屋へ入っていった。
 強気に押して正解だった。奈々未はザクロの女性のポスターに背を向けて、『うまくいった』と愛理に連絡した。
 思わぬ展開に拍子抜けがしてしまった。
 けれども今度は別の不安が過った。詐欺と承知でお金を払うということは、何か魂胆があるに違いない。男が考えることはたった一つ、見返りに身体を要求してくるのだ。条件次第ではパパ活と割り切ってもいい。だが、無理矢理に押し倒してきたならば、こっちから警察を呼んでやる。
「この人に乱暴されました」「この女は詐欺師です」
 どっちの刑が重いんだろう。


 * 一話ごとの掲載量を増やし、4000文字くらいにして、連載回数を25回程度にいたします。

連載ー1 美人画廊

 本日から私の書いた小説を掲載してまいります。1回につき2500文字くらいで、35回ほど続きます。よろしくお願いいたします。


 美人画廊(令和版)
 おもな登場人物
 河田奈々未  
 吉井孝夫   


 美人画廊 1話 第一章 1の1


 公園の横を過ぎたところで車はスピードを落とした。運転席の水上愛理が「すぐそこ、美容室の向い側よ」と左側を指差す。河田奈々未はその方向にチラッと視線を送った。
 くすんだ緑色のドアが目に入った。この店だ。
 愛理は次の角を左折し、もう一度左に曲がって、その先にあるアパートの前で車を停めた。南欧風の洒落たアパートだ。敷地内の専用駐車場に車を入れる。無断で停めるのだが、ほんの五分くらいだから見咎められることはないだろう。
 二人は車を降り、後ろの座席に置いてある版画の入った箱を引っ張り出した。版画の箱は全部で四つ、水上愛理がそのうちの二つを持ち先に立って歩き出した。奈々未も両手に箱を抱えて続いた。
 すでに愛理が店の下見をしてあった。下見というより「仕込み」と言った方が当たっている。一昨日、愛理はこの先にある画廊に行き、ラッセンやブラジリエの版画を買いたいのだがと持ち掛けた。画廊の店主は、生憎だがどちらも置いてないと言った。
 それでよい。これから売りにいくのである。奈々未と愛理が持っているのはラッセンとブラジリエの版画だ。
 通りに出るあたりで愛理は、うまくやってねと言い残し、箱を四つとも奈々未に託した。愛理が先に帰ったのは、奈々未と二人でいるところを見られてはいけないからである。


 愛理の話によると、その店は「新堀画廊」といい、店主は三十代前半、意外とイケメンだったそうだ。
 ちょうど大幅な模様替えの最中らしく、壁の版画はあらかた取り外され、床には掛け替えるための版画の箱が幾つも置かれていた。入り口近くのラックに入っている数点の版画は、パッと見たところあまり高価なものではなく、五千円から高いものでも三万円ほどだった。メルヘンチックな西洋の城やバラの花束などの絵柄が多かった。他には、地元の横浜中華街や山下公園、マリンタワーを描いたものもあった。カシニョールやカトラン、あるいはローランサンなどのヨーロッパの作家は見当たらなかったということだ。
 それを見て、愛理はこの画廊で実行すると決めた。ターゲットにした。
 これから実行しようとしていること、それは見ようによっては詐欺行為と受けとられかねないことである。
 方法はそれほど難しくはない。今回のように愛理が前もってターゲットの店に、○○の版画を探している、購入したいと持ち掛ける。その後で奈々未が○○の版画を売りたいと店に行くのである。画廊はいいタイミングだとばかりにそれを買い取る。ところが、そのあとで愛理に連絡しようとしても電話は通じなくなっているという寸法だ。奈々未と愛理は現金を手にし、画廊は版画を在庫として抱え込むことになる。
 詐欺と言われたらそれまでだが、版画を騙し取るわけではないし、一般の人に高額ローンで売り付ける絵画商法とも違うのである。しかも、その版画が売れれば、画廊にとっては「仕入れ」と同じことになるのだ。
 四月の始めのことだったが、県内の川崎にある画廊で同じような詐欺を働き、その時は百万円ほど手に入れた。あれから一か月半ほどたち、そろそろお金も底をついてきた。この辺でひと稼ぎしようということになった。


 河田奈々未は新堀画廊の前で立ち止まった。ここから先は奈々未の腕の見せ所である。
 版画を売りにきたお客を演じる。そう、女優のように演技するのだ。
 緑色のドアの上には半円形の窓があって、ステンドグラスが嵌めこまれている。なかなかいい感じの店だと思った。
 愛理の話では、ラッセルと聞いて店主は首を傾げたそうだ。この世界では著名なアーティストを知らなかったとみえる。察するに、趣味が高じて画廊を始めた脱サラ組なのだろう。ここで商売の厳しさを教えてあげよう、この世界は甘くないのである。
 奈々未が版画の箱を二つドアの横に立てかけ、別の箱を運ぼうとしたとき、向いの美容室から女性が出てきて「持ちましょうか」と声を掛けられた。詐欺の手伝いをさせるわけにはいかないので結構ですと丁寧に断った。
 ドアの前で呼吸を整えていると内側から開いて店主らしい男性が顔を出した。ストライプのワイシャツに黒いジャケットを着ている。これが吉井孝夫だろう。愛理から名刺を見せてもらったので名前は知っているが、ここは初対面なので知らないフリをしておく。
 愛理が言っていたように、吉井孝夫はそこそこのいい男だ。奈々未の好みのタイプに近かったので思わず笑みがこぼれる。
「こんにちは」
「パートに応募の方ですね」
 いきなり、アルバイトの面接に来たのかと間違われた。出窓のガラスに『アルバイト募集』の張り紙があるのが見えた。それは無視して、店内に版画を二点持ち込んだ。


  ・・・・・・
作者より
 この小説には英国の世紀末絵画が出てきます。登場する絵画については、下記の書籍でご覧いただくか、あるいはネットなどで検索してください。


 バーン=ジョーンズ「魔法にかけられるマーリン」「ピグマリオン・成就」「希望」「信頼」
 ロセッティ「プロセルピナ」
 ウォーターハウス「ユリシーズとセイレーン」
 フリス「ロイヤル・アカデミー展の招待日 1881年」
 ワッツ「選択」
 ファイルズ「救貧院臨時宿泊所の入所希望者たち」


【参考文献】
「ラファエル前派の世界」 東京書籍 齊藤京子
「ヴィクトリア朝万華鏡」 新潮社  高橋裕子 高橋達史
「ヴィクトリア朝挿絵画家列伝」 図書出版社 谷田博幸
「水の女」「眠る女」「黄泉の女」 トレヴィル


 この小説は架空の物語であり、作中の人物、事柄は現実の方々、事物とは関係がありません。
 横浜市の社会福祉についてはG・T氏に教えていただきました。

タマムシ

 散歩中にタマムシを発見しました。しかし、車に引かれてアスファルトにペシャンコになっていました。かわいそうなので翅を持って帰りました。翅というよりは翅を収めるサヤの部分かもしれません。


 私の住むところは横浜の西のはずれで、大和市、藤沢市に隣接しています。畑、田んぼがある地域です。引っ越して五年以上になるのですが、タマムシを見たのは初めてです。


 新型コロナの影響で人間の活動が制限され、その結果、二年の歳月を経て、自然環境が改善されてきたのでしょうか。だとすると、思わぬ効果ですね。人間は自然の一部ということを改めて実感しました。


 写真ではよくわからないけれど、実物は緑と赤でキラキラ輝いています。