本の感想

 久しぶりに本の話です。良かった本とハズレ本があります。


 1 「模倣の殺意」 中町信 創元推理文庫。


 ミステリーなので、トリックを明かさないように注意しながら感想を書きます。この本はおもしろかった。1970年代の作品だというから、今から50年も前のものです。なるほど、随所に古めかしい文章表現がありました。病院で喫煙するとか、電話交換手など、現代では考えられないところもありました。また、頻繁に改行されていて無駄な余白が多いと思いました。この作品は叙述トリックです。トリックは凄いと思います。


 ある作家が自殺して、それを調べる女性がいる。また、別のライターの男性は、自殺した作家の最新作が盗作だったのではないかと疑いを持つという内容です。途中まではこのような展開なのですが、最後になると、実はそうではなかったことが判明します。結末では、あっと驚きました。読んでいるうちに、なんとなく変だと思う箇所があって、でも、まさかという思いです。


 初めて読んだときはスラスラ読めたのに、結末が分かってから読み直すと、なかなか前へ進めなくなりました。トリックの部分を考えすぎて、その複雑さに頭が混乱してくるのです。おそらく著者自身も整理がついていなかったのではないかと思ったりします。


 この作品、北陸地方が二次的な舞台になっています。石川県にある北陸線の寺井駅も出てきます。金沢から小松へ進む途中の駅です。寺井駅は現在では「能美根上駅」と改称されています。ここから、能美線が出ていたのですが、すでに廃線になっています。小説では、登場人物が寺井駅のホテルに宿泊したという設定です。



2「屍人荘の殺人」 今村昌弘 創元推理文庫。


 鮎川哲也賞受賞作であり、「このミステリーがすごい」などで評判が高いそうです。けれども、私にはどこが面白いのか、どこがいいのか、さっぱり分からなかった。ハズレ本でした。


 周囲と隔絶した閉ざされたペンションで起こる殺人事件です。しかも、その近くでは特殊機関による大事件が発生するという設定です。この小説は一人称で書かれているのですが、特殊機関が起こす部分は三人称になります。この書き分けはうまくできていました。しかし、この混乱した状況を一人称で書き進めるのには無理があったのではないかと思います。事件や事故は、その発生場所にいる人には何だか分からないもので、離れたところでテレビを見ているほうが状況を把握できるものです。


 ペンションに閉じ込められた主人公たちは、特殊機関が引き起こしたパニックについてテレビ報道で知るだけです。けれど、まだ、事件発生後の第一報の段階であり、詳しいことは描かれません。しかも、小説の中では、特殊機関については、途中で作者が投げ出したみたいな粗雑な扱いになってしまいます。


 小説の内容がホラー的で、途中で不快になり、なんとか最後まで読みましたが、結局、何が言いたいのか分からないまま終わりました。この作品を読んで、何か得るものがあるのでしょうか。一時的な愉しみにはいいかもしれませんが、私には何も得るものがありませんでした。