2回目 オペラに関する試論メモ 箇条書き

 リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ「エレクトラ」の初演時には賛否両論があったといわれている。


 「エレクトラ」を観て、電気椅子(エレクトリック)に縛られていると酷評されたり、また、ある音楽家は自宅に戻ってドミソの和音を24回弾いて落ち着いたというのも伝わっている。不協和音で、しかも大音響だかであろう。


 「エレクトラ」は今から150年も前の作品で、その当時はとてつもなく前衛的な音楽だった。だが、現在聴いても前衛的だと思うことに変わりはない。全曲聴き通すのは、忍耐力が必要なので、冒頭の5分とラストの10分だけでも聴いてみる価値はある。


 1930年ごろまではオペラの新作が発表されていた。上演されるのはほとんどが新作オペラだったのである。歌手の疲労を考慮するので、オペラは連日上演することができない。となると、初演を観るというのは、その場限りの一回だけの経験をすると言えるだろう。今と違ってレコードはないし、ましてDVDや動画は存在しなかった時代である。当時の人は、たった一度の鑑賞で、音楽や歌を記憶に留めるという作業をしていたのであろう。現在の私たちからは想像もできない。現代人は音楽の再生に頼り過ぎて、そのような能力を失ったのかもしれない。


 「エレクトラ」に関しては、次のようなエピソードもある。


 「エレクトラ」を観た観客が感想を聞かれて、実に素晴らしかったと答えた。では、音楽はどうだったかと訊ねられ、音楽は何も聴かなかったと答えたということだ。リヒャルト・シュトラウスはこの逸話を気に入っていた。


 これは何を意味しているかというと、シュトラウスは台詞に音楽を付けるのがうまかったということらしい。しかし、「エレクトラ」の音楽は不協和音が鳴り響き、大オーケストラで音量は大きい。音楽が聴こえなかったとは思えないのだ。


 オペラには演奏会形式の上演があって、これは通常は舞台下のピットにいるオーケストラが舞台にあがり、歌手はその前で歌うものだ。「エレクトラ」の演奏会形式上演がある。つまり、演奏会形式の上演では、音楽はオーケストラがピットにいるよりさらに大きく、ダイレクトに聴こえる。


 「エレクトラ」の演奏会形式の上演は、動画サイトで、1993年 BBC  アンソニー・デイビス指揮のオペラが見られる。エレクトラの歌手が髪を振り乱し、すごい形相で歌いまくる。ラストは恍惚として、狂気の絶頂に達して終わる。


 通常の上演は、2002年 Virginia opera ペーター・マーク指揮が面白い。「エレクトラ」は最後の10分くらいは、エレクトラのダンスが続く。この動画ではエレクトラ役の歌手はやや太めだけど、ダンスはうまくこなしている。また、本来は設定にない美少女が登場しているのが効果的だった。


 この演奏会形式の上演に適しているのは、ワーグナーでは「ラインの黄金」と「ワルキューレ・第一幕」だ。