日本語の発音はどう変わってきたか

 日本語の発音はどう変わってきたか 釘貫亨 中公新書


 本書は副題に、「てふてふ」から「ちょうちょう」へ、とあり、帯カバーには、羽柴秀吉は「ファシバフィデヨシ」だった。とあります。


 日本語の発音の変化の歴史です。奈良時代の発音の特色から、鎌倉時代の藤原定家、江戸時代の本居宣長、明治以降に至るまで、発音と表記に関して述べられています。内容は専門過ぎるところがあって、かなり難しい。三回読んで、部分的になんとなく分かりました。


 以前、拙作「短編集(完結)」蟷螂の斧、の中で、以下のようなことを書きました。私が公園で知り合った堀池さんに尋ねます。


(本文より)その質問は、「なぜ昔は蝶々のことを、てふてふ、と言ったのか」である。(中略)
 日本に漢字が伝わったころ、蝶の字は「てふ」と読んでいた。それが、ハ行がワ行になって「てう」に変化し、さらに母音が連続すると長母音化し、その結果、「ちょう」になったというわけだ。
 てう=teu では、連続する母音euがyoになり、tyo=ちょうとなるのである。ちょうのような拗音が現れるのは平安時代の末から鎌倉時代にかけてのことだ。
 このことから、平安時代の初期までは、書く場合も発音するときも「てふ」だった。時代とともに「てふ」の発音が「てう」となり、後に「ちょう」となって、それが戦後まで続いた。戦後は表記と発音は同一とされたので、書くのも読むのも「ちょう」になったと思われる。「ちょう」になるまでには二段階の変化を経てきたのである。蝶だけに変態というべきだろうか。
(中略)
「わが国に漢字が伝わったのは三世紀の後半だと言われています。その当時、日本には文字がありませんでした。問題の「蝶」の字ですが、これは現代の中国語では、ティエ【die】と発音します」
「ティエですか」
「ところが、漢字が伝わった当時は少し違っていて【tiep】という音だったのです。このpはfに近い音で、聞こえるか聞こえない程度に発音されたようです。ティエの後に、微かにPの音、フの音が付いていたと思われます。このフの音を、そのころの日本人はハッキリと聞き取ったのだと考えられます」
「日本の人は【tiep】がティエフに聴こえたんですね」
「そうです。日本語は子音だけは発音できませんからね。【tiep】はティエではなく、ティエフになりました。それが「てふ」変化したのです」


 私はこれを書くにあたっては、堀池さんのモデルにさせていただいた方に教えてもらいました。今回、上掲の本を読んで、教えてくれた内容が概ね正しかったことが判明しました。間違ったことを書いていたらと心配だったのですが、これで安心しました。


 「ファシバフィデヨシ」というのは、もともと、ハ行はパに近い発音で、それが時代とともにファのような発音に変化したのだそうです。