ウトパラの蓮 その3

 ウトパラの蓮 その3
 ここではチベットの寺院に描かれている壁画の模写をしています。


 那須川花恋・・・絵画のモデル
 ヤブユム・・・男性守護尊をヤブ、女性守護尊をユムという


 午後の制作はペンコル・チューデという寺にある、守護尊『チャクラサンヴァラ』のヤブユム像であった。男性の守護尊が前を向いて立ち、女性が両足で男性の胴体を挟んで抱きついていているという構図だ。女性は両足を地面から放しているので身体は宙に浮いている。
 男性の守護尊、チャクラサンヴァラは青い身体に顔は三面、六本の腕を持つ姿で描かれている。顔は正面が青で左右は赤と黄色だった。上部の二本の手で動物の皮を広げて掴み、女性の背中に交差させた両手には金剛杵という密教仏具を持っている。
 女性の明妃、ヴァジラヴァーラヒーは赤い身体で顔は一つ、腕は二本である。右手は上に伸ばし、左手にはドクロ杯を持って、男尊に飲ませてようとしている。両足は男尊の胴体を挟むように巻き付けてある。
 女性尊の背中に隠れているのだが、明らかに肉体は一つになり、立位の姿勢で交わっているようにも見える格好だ。
 これが最後のポーズである。
「僕の肩に手を当ててください。グッと掴んでいいですよ」
「うん、それから、脚を絡めるのね」
 充と花恋は寄り添ってポーズを確認している。
「身体を持ち上げるときは、僕が引っ張ります」
「充君、優しい。タイミングうまくあわせようね」
「花恋ちゃんが落ちないよう、ガッチリ抱きます。日頃から鍛えてますから」
「わたしも本気で絡むからね」
 今回のポーズは花恋が充の胴体にいかにしっかり脚を絡ませるかがポイントだ。しかも、二十分の間、花恋は身体が浮いたままの姿勢を保っていなければならない。
 モデルの二人が位置に着いた。
 花恋が住吉充の肩に腕を掛け、右脚を彼の腰に絡めた。充が花恋の背中に手を回す。花恋は軽く反動をつけお尻を持ち上げた。左脚も絡め、両脚で充の胴を挟み込んだ。充が両腕で花恋をしっかり抱き止めた。花恋の身体が宙に浮いた。花恋は右手を伸ばし、中空に上げる。左手は充の首を抱え込むように回された。
 二人は密着して抱き合った。花恋がその豊かな乳房を充の胸板に押し付けた。
 小高優子が、明妃ヴァジラヴァーラヒー役の花恋の左手にドクロ杯を持たせた。ドクロ杯には酒が満たされていて、男性の守護尊、チャクラサンヴァラに酒を飲ませようとしているのだ。
 充の手には金剛杵を握らせた。
 見事にポーズが決まった。
 男性は立ったまま、そこへ女性が男性の腰を脚で挟むという無理な姿勢だが、充はバスケの選手だし、花恋は新体操をやっていたから二人とも身体能力が高いのである。


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その3で終わります
ウトパラの蓮は、ノベルデイズ、エブリスタ、ステキブンゲイ、縦書き文庫などで公開しています。