ハズレ本 不可能な過去

 ハズレ本とは、期待した割には面白くなかった本です。


 不可能な過去・警視庁追跡捜査班 堂場瞬一 ハルキ文庫


 十年前に無罪判決が確定した事件で、その犯人から、真犯人は私です、との告白状が送られてきた。しかし、一事不再理によって捜査はできない。これに、四年前の未可決事件が絡んでくる、というミステリーです(以下の文章に回は事件の核心に触れる箇所があります)。


 警察署に告白状が届くという設定は面白い。こういうの好きなんですよ。途中までは高評価だったのに・・・グダグダで終わった。


 簡単に整理しておくと、
 十年前の殺人事件・・・容疑者逮捕も裁判で被告は無罪確定。その後、元被告は病死。
 四年前の殺人事件・・・マンション玄関の防犯カメラに正体不明の人が出かける姿が映っていたが、帰宅したときは映っていなかった。この人が怪しい。しかし、事件は迷宮入り。


 これを、追跡捜査班の刑事が捜査していくというのです。十年前の事件は元被告が亡くなってしまったので、その周囲から調査するしかない。こちらはあまり進展がありません。


 四年前の事件を追跡捜査班が操作する過程で、防犯カメラに映っているが特定できていない人物がいて、その人が別の障害事件を起こして逮捕されました。
 その取り調べ中、犯人が四年前の事件について刑事が尋問し、それに対する犯人が答えます。


「(前略)でも、正面の出入り口のカメラには、君がマンション戻る場面は捉えられていなかった」
「裏口があるんだ」(犯人の答え)
「裏口?」


 刑事が「裏口?」と聞き返しています。この刑事は、裏口のことを知らなかったのでした。嘘みたいな話ですね。一気に緊張感が抜けました。
 事件のあったマンションに裏口があることを知らなかったなんて、いったい事件発生当初、警察はどんな捜査をしたんだと思いました。そんなの外から見れば分かるでしょ。私たちだって、通りすがりに見るだけでも、正面玄関と通用口があることぐらい分かります。
 それに加えて、このマンションの防犯カメラは玄関から建物内部を撮影しているようです。むしろ、不審者、侵入者を調べるためには、玄関の入り口側を映していないと役に立たないと思います。これでは住民の監視カメラみたいです。


 こんなのは手抜きというか、やる気のない捜査としか言いようがありません。裏口の一件など、現場を見れば一目瞭然、あるいは住民に訊くとか、不動産屋に確認すればいいことです。たぶん、気が付かないことにしておかないと小説が成り立たなくなるからでしょう。でも、読者に対して解決のヒントはきちんと提示しておいてくれないと本格推理小説のルール違反ですよ。
 これが、犯人の仕掛けたトリックを見破れないのであれば納得できますが、裏口があるかないかなど新築マンションの広告のレベルの話ではないですか。


 次に、十年前の事件については、密告電話、いわゆる、タレコミがあって、その情報をもとに、ある人物を容疑者と断定したのですが、ここにも問題がありました。密告電話は、固定電話から、しかも会社の電話から掛っていたということが判明しました。追跡捜査班により、引退した刑事に聞き取りして、通報先の電話番号が分かり、それが事件解決につながるというのです。その当時は十年前は通報先を確認していなかったというのですから、これも呆れますね。それに通報者としても電話番号を知られないよう公衆電話を使うのが当然だと思います。
 よくあることですが、ミステリーには辻褄を合わせようとして無理な展開になるものがあります。


 最後に、小説の冒頭、事の発端となった、十年前の事件は、私がやりました、との告白状が送られてきたところでも、告白状についての調査はしていないようです。警察官の個人名宛てに郵送されているのですが、警察に手紙を書く場合の表書き、○○課とか○○係○○氏、みたいなのはよほど詳しい人でないと分らないでしょう。しかも、このとき、元被告は亡くなっていたのですから、告白状の差出人を調べるべきだったと思いました。また、この事件は起訴されて無罪になったのですから、警察だけでなく、検察も責任が問われるべきです。しかし、検察の動きはまったく触れていなかった。


 ついでにもう一言。113ページに、『(前略)同時に大竹宛のメモも作って渡す。』とあるんだけど、この、大竹氏は追跡捜査班の一員らしいのですが、それまで名前がなくて、突然ここに登場してきた。誰なんだろうと思った。もしかしたら、私の見落としではないかと二度読み返したが、やはりこのページ以前には出ていませんでした。


 というわけで、前半は良かったのに後半は残念な本でした。新刊で買ったんだから、そのお金が・・・